カンケリデリセット

ノラに別れを告げ
路地裏を進むと
突然
雨が降ってきました


「雨宿り。雨宿り。」


妖精が
小さな身体で
“ぴょろぴょろ”と走っていると
一際目立つ騒がしい
灯りのついたバーを見つけました。


「忍び足。忍び足。」


そう呟きながら
妖精は
そっとそのバーで
雨宿りすることにしました。


「あらあら、小さな坊や。
お酒はまだ早いんじゃない?」


その鋭くも甘い女性の声に
妖精は
肩をビクッとさせました。


「僕は雨宿りを
しているだけなんだ
それに坊やじゃなくて
ニルノラフ
妖精の旅人さ
お姉さんは一人?」


動揺を隠すような温度で
ケロっと答えます。


「あら、妖精さんだったのね。
私は一人よ。
なんだか今日は
飲みたい気分でね。
いや
飲まれたい気分かしら…」


女性はそう言うと
雨粒が滑る小窓に
視線を移しました。


「おやおや、恋人と
喧嘩でもしたの?」


打って変わって
意地悪な声色で
妖精が問います。


「そうねぇ
‘幸せについて’
考えていたの」


「幸せかぁ
それなら僕は幸せだよ。
だけど
定義なんてつまらないこと
考えたことないな」


妖精は小石を蹴るように
退屈そうに呟きました。


「そんなことよりもさ
僕は物語が聞きたいな。
例えば‘恋のお話’とかさ。」


妖精は
小皿にひょいっと飛び乗ると
ワクワクした顔で
女性を見つめました。


「んー、物語ね。
あぁ、それなら
‘とっておき’なのがあるわ。」


そう言うと女性は
想い出を捲るかのように
ある少女の物語を
話し始めたのでした。