王様と自転車

“昔々の遥か昔
とある王国のお城に
それはそれは
ワガママで独善的な王様と
心清らかで優しい王妃様が
住んでおりました”


「王様の物語は
いつだって面白いもの
ばかりだな!」


バーでの一夜を明け
妖精は
晴天の真下で
一冊の絵本を読んでおりました


「あれ?ここから先のページが
破れていて読めないや
続きが気になるのに!」


物語の大好きな妖精は
歯痒さのあまり
一人ジタバタ
暴れ狂ってしまいそうになりました


「あ、そうだ!
この絵本の世界の結末に
飛んでいってしまえば
王様に直接
物語を聴けるんじゃないだろうか
僕はなんて頭がいいんだ」


妖精は突如
そんな
とんでもない発想を思い付くと
居ても立っても居られなくなり
現実ではありえないような
不思議な力によって
絵本の結末へ
飛んで行ってしまったのでした


‘キコキコ キコキコ
キコキコ キコキコ’


自転車を漕ぐような妙な音が
妖精の鼓膜を擦ります


「なんだなんだ⁈
変な音がするぞ!!」


妖精が見上げると
そこに居たのは
いそいそと
政治ペダルを漕ぐ
汗だくの王様でした


「はて、王様ってこんなだっけ?」


妖精は記憶を辿りながら
首を傾げます


「おや、妖精とは珍しい
こんなところで
なにをしているんじゃ?」


小太りで汗だくの王様が
妖精に話しかけます


「僕は外の世界から来たんだ
わがままで独善的な王様ってのを
一目見たくてさ」


好奇心と嫌味が
混ざったような声で
妖精が問います


「わはは、酷い言われようじゃな
でも確かに
それはワシのことじゃ
しかし
少し前のワシと言った方がよいかの」


王様は含みを持たせた言葉で
妖精をからかいます


「焦れったいなぁ
どういうこと?」


妖精は内心ワクワクしながらも
イライラしたような声で問います


「しょうがない妖精じゃな
よし、それでは
ここは絵本の世界じゃ
ワシがワシ自身の物語で
読み聞かせてやるとするかの」


そういうと王様は
少し前までの
自分自身の物語を
話し始めたのでした