蟻の流星座

記憶の樹海を抜け
目を覚ますと
外はすっかり夜でした


妖精がいつものように
森への帰路を辿っていると
紺青に染まる夜空を見上げる
一匹の蟻に出会いました


「ねえ蟻さん
いったいなにを見てるの?」


妖精は蟻に問いました


「見ているんじゃないよ
探しているんだ」


「なにを探しているの?」


「とても大切なモノさ…」


「君の大切なモノって
夜空に浮かんでいるものなの?」


「いいや
夜空に昇ってしまったんだ」


そう言うと
蟻は
少し寂しそうに
微笑みました


「僕、明日銀河行きの
彗星列車に乗るんだ
蟻さんも来るかい?」


妖精は銀河行きの切符を
ヒラヒラと見せながら言いました


「銀河行きだって?!
あの子に…
あの子にまた会えるだろうか?」


「よくわかんないけどさ
きっと会えるよ」


妖精は
肩に手を置くような
優しい声でそう言うと
銀河行きの切符を差し出しました


「いや、それでも
やっぱりやめておくよ」


「どうしてだい?」


「僕はまだあの子には会えない
会いに行っちゃいけない気がするんだ
いつか交わした約束を果たすまでさ…
でもそれまで待っていてくれるだろうか」


と、その瞬間
紺青の空を
二つの綺麗な光が
星座のように手を繋ぎ
一瞬で流れ
消えていったのが見えました


「流星座だ
僕はじめて見たよ
きっとあの光は
蟻さんの言ってた
大切なモノだね
待ってるよって
僕にはそう聞こえたな」


「うん、僕にもそう聞こえた
お腹の子も元気そうでよかった」


そういうと蟻は
安堵に口元を綻んでみせました


その表情は
この満天の夜空に広がる
どの景色よりも美しく
そして儚く
輝いて見えたのでした