野良ノ唄

ここは人間達の住む
「街」と呼ばれるところ

狭い、暗い、路地裏
そこには
微かな光と歌声が
漏れていました


「キレイな歌声だなぁ」


その声に釣られ
路地裏を覗くと
そこには
一人の少女が
誰もいない
観客席に向かって
唄を歌っているのが
見えました


「こんばんわ。
とても美しい唄を歌うんだね」


妖精は
歌声を遮るように
叫びます


「あなたは、だれ?」


薄汚れた
ワンピースに身を包む
その少女は
少し不機嫌な
表情を浮かべています。


「僕はニルノラフ
旅の妖精だよ
君の歌
ここで
聴いててもいいかな?」


ニルノラフがそう言うと
少女は
恥ずかしそうに
軽く頭を下げ

すぐにまた
唄の準備を
始めたのでした


「あっ、ところでさ
君の名前を教えてよ」


「名前、、
私に名前なんてないわ
ずっと独りぼっちだったもの。
必要もないわ。」


少女は
溜め息混じりの声で
呟きます


「何を言ってるんだい?
独りぼっちなんて
僕だってそうさ
僕だけじゃない
命あるもの
みーんなそうだよ
僕は自分の名前は
自分でつけたよ」


「あら、自分で?」


思わず少女の頰が緩みます


「そうさ
それに必要ならあるよ
今まさに僕が
必要としてるんだからね」


妖精は
屈託のない笑顔で
そう言いました


「それじゃ、
私に名前をください」


俯きながらも
少女は勇気を出して
ハッキリと
そう言いました


「いいよ
じゃあ僕の名前を
半分あげる
ノラってのは
どうだろうか」


「ノラ…ノラ
素敵な名前
私はノラ
あなたが私にとって
初めてのお客さんです
どうか私の唄を
聴いていってください」


ノラはそう言うと
またあの唄を
歌いはじめたのでした